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SOURCE: RISKYBRAND MINDVOICE® 2008-2018
PDF: RB_MV_REPORT_180718.pdf

ブランドコンサルティング会社の株式会社リスキーブランド(本社:東京都渋谷区、代表:田崎和照)は、同社が2008年から実施している生活意識調査MINDVOICE®調査(約4,000サンプル/年)を用いて行なった「日本人の仕事意識」について報告いたします。

サマリー

 

  1. 日本の社会的価値観はこの10年、「冷笑主義(シニシズム)」の傾向が高まった。
  2. 「冷笑主義(シニシズム)」には7つのポイントが含まれる。①他人への無関心、②信頼関係の希薄化、③感動の希薄化、④リスクは取らない、⑤今さえ楽しければ、⑥贅沢の日常化、⑦冷めた目線
  3. ブランディングやマーケティングの場面では、このことを踏まえた新しい原則が必要になるだろう。例えば、「共感訴求より、独自性訴求」「論拠やストーリーの強化」「強固な企業倫理の訴求」「新しい贅沢の概念」など

 

<背景>
「社会的価値観(Social Value Climate)」は、マーケティングやブランド戦略を立案する場合の基本的視座になるものです。この10年間、社会には様々な変化が起きました。例えば、2008年秋のリーマンショックとそれ以降の経済回復、2011年の東日本大震災・2016年の熊本地震、Eコマース、SNSの急速な普及、長期政権となった安倍政権の継続、働き方改革などが挙げられるでしょう。また、総務省統計局は「2008年が、人口が継続して減少する社会の始まりの年~人口減少社会「元年」と言えそうなのです。」としています。(www.stat.go.jp/info/today/009.html)
では、そうした社会変化の中、日本人の価値観はどう変化したのだろうか?本分析は、これを統計的に視覚化することを目的に行われました。

分析は、2008年から2018年までの10年間の時系列データ(各年約4,000サンプル/計46,369サンプル)を使って行われました。

1.この10年、冷笑主義(シニシズム)の傾向が高まった。

このチャートは、日本人(15-64歳男女)の価値観を主成分分析という統計手法を使って分析し、日本人全体の重心点の動きを2つの軸の上にプロットしたものです。プロットされたそれぞれの座標点は、2008年を原点とし2018年までの10年間それぞれの年の日本人全体の重心点を示します。
社会的価値観の動向を示すこのチャートでは、日本人の重心点は、2008年からリーマンショックの翌年2009年には一旦左上に動いたものの、それ以降は一貫して右下に移動しています。
上記の結果から、この10年の日本の社会的価値観は、言わば「冷笑主義(シニシズム/Cynicism)」が高まっていると読み取れます。
シニシズムという単語は、広辞苑(第7版)によると、「①キニク学派の教義。②一般に世論・習俗、通常の道徳などを無視し、万事に冷笑的に振る舞う態度。犬儒主義。冷笑主義。シニスム。」とあります。
「シニシズム」の本来の意味とは少々異なるかもしれませんが、本分析では「冷笑主義(シニシズム)」を、社会や権威には冷めた目線で接し、先のことを深く考えるよりも、今の状態を楽しもうとする価値観と位置付けました。

A.「社会とは一定の距離を置く」傾向へ。
「価値観チャート」の縦軸(上下)の変化をみると、日本人の重心点は「積極的に社会に関与する」意識から「社会とは一定の距離を置く」意識の方向へ移動しています。
背景には、明るい未来が描きにくい、この10年の社会状況の変化があると推測されます。リーマンショックから経済は立て直したものの、いよいよ実感が増してきた人口減少や少子高齢化社会、震災や環境問題の深刻化に伴う社会不安、東芝粉飾決算事件(2015年)、シャープの買収(2016年)など日本を代表する企業の不振や信用の低下などが複合的に影響を与えていると考えられます。
「積極的に社会に関与する」ことで、会社や組織の中での地位や報酬が一様に上がっていく未来が描きにくくなっていることも影響しているでしょう。所得の二極化に伴い、一部の人はかつてないほど地位や報酬を得ている反面、大部分の人は、そうした成果を味わうことは簡単ではなくなっています。

B.「深く考える」から「刹那的に生きる」へ。
「価値観チャート」の横軸(左右)の変化をみると、日本人の重心点は「深く考える」意識から「刹那的に生きる」意識へ移動しています。
背景には、あまり深く考えなくても、あるいは頑張らなくても、生活を楽しむことができるインフラが整ったことがあると推測できます。かつては、頑張ることで生活を豊かにし、生活を楽しむという構図があったと推測されますが、その構図はこの10年のテクノロジーやサービスの進化によって崩れたと言えるでしょう。
欲しい情報を得るには、多くの書籍を読み込む必要はなくスマホ画面をスクロールするだけで様々な情報の要約を一読できるようになりました。実際に会うことはなくともクリックするだけで友達ができる仕組みが出来上がりました。4Gの普及によってどこでも安価に好きな動画を楽しむことができるようになりました。
高額で手が届かなかった高級ブランドの衣服も、フリマアプリを使えば、劇的な低価格で入手することができるようになりました。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2008年には存在しなかったフリマアプリは、初めて登場した2012年から僅か5年後の2017年には5,000億円弱の巨大市場にまで成長しています。

補記:団塊ジュニア以降の世代が、全人口の過半数を超える。
団塊ジュニア世代は、1971年から1974年までに生まれた世代と言われます。1971年生まれの人を例にとると、20歳の時にバブル経済が崩壊し、大学を卒業するタイミングで深刻な就職氷河期を迎えた世代です。
団塊ジュニア世代は、その上の世代であるバブル世代や団塊世代と異なり、やみくもな消費意欲は少なく、クールな価値観が特徴と言われています。「冷笑主義(シニシズム)」の萌芽は、団塊ジュニア世代にあったという仮説も成り立ちます。団塊ジュニア世代以降に生まれた人の人口は、2017年時点で約6,247万人と、全人口の49%を占め、2018年には過半数を超えると予想されます。
仮に、団塊ジュニア以降の世代が、「冷笑主義(シニシズム)」の要素をもっているとすれば、その世代が全人口の過半数を占めるようになるということは、社会的な価値観が「冷笑主義(シニシズム)」に向かうということに関連しているかもしれません。
また、「冷笑主義(シニシズム)」は、日常生活に困らない、言わば経済的に恵まれた環境にあって、初めて生まれる価値観と考えられます。団塊ジュニア世代以降の世代は(様々な社会問題はあっても)日常生活には困らない豊かな時代に育った人が多いはずです。

日常生活には困らない豊かな時代ではあるけど、社会全体では人口減少など様々な不安要素が増え、明るい未来を描きにくい。そうした時代背景が、日本の社会的価値観が「冷笑主義(シニシズム)」に向かう要因となっていると考えられます。

2.「冷笑主義(シニシズム)」には7つのポイントがある。

本分析に使用したMINDVOICE®データを詳しく分析すると、「冷笑主義(シニシズム/Cynicism)」は次の7つのポイントが含まれていることが分かります。

① 他人への無関心
② 信頼関係の希薄化
③ 感動の希薄化
④ リスクは取らない
⑤ 今さえ楽しければ
⑥ 贅沢の日常化
⑦ 冷めた目線

① 他人への無関心
冷笑主義を説明する1つめの社会傾向は、「他人への無関心」です。「他人がどうなろうと、どういう生き方をしようと自分には、全く無関係だと思う」と答えた人は、この10年で3割強(12ポイント)増加しています。

プライバシーの保護は重要な社会テーマの1つですが、個々人の私生活レベルでもプライバシーに配慮するがあまり、人との距離感が広がり、他人への無関心という傾向につながっているのかもしれません。

② 信頼関係の希薄化
「信頼関係の希薄化」も、冷笑主義を説明する社会傾向と言えます。「周りの人は自分のことを理解しておらず、正しく評価されていないと感じる」と答えた人は、この10年で13%(4ポイント)増加しています。

情報メディアの発達によってコミュニケーションの絶対量は増しているはずですが、実際には自分のことが理解されていない、周囲から正しく理解されていないと感じる人が増えているようです。

③ 感動の希薄化
冷笑主義を説明する3つめの社会傾向として「感動の希薄化」が挙げられます。「何かにつけ、よく感動する方だ」と答えた人は、この10年で17%(10ポイント)減少しています。

未来が不透明な時代にあって、失望リスクを軽減するために「感動」に対して冷笑的なスタンスをとる人が増えていると考えることができます。

④ リスクは取らない
「リスクを取らない」傾向も、冷笑主義を説明する社会傾向です。「他人からどう評価されようが、自分のやりたいことを実現するために、相当の冒険やリスクを賭けている」と答えた人は、この10年で24%(9ポイント)減少しています。未来が不透明であればリスクをとるリターンも不透明です。

リターンに対する期待値を調整し、リスクをとる人が減少しているのかもしれません。

⑤ 今さえ楽しければ
「今さえ楽しければ」という意識も、冷笑主義を説明する社会傾向と言えます。「明日がどうなろうと、今が楽しければそれで構わない」と答えた人は、この10年で4割強(8ポイント)上昇しています。

社会や既存の慣習に対して冷笑的に接することは、生活者の関心が短期的な個人の楽しみに向かう力学を促します。同時に、冷笑主義(シニシズム)は一定の生活レベルが保証された状態で初めて生まれる価値観だとすれば、「今さえ楽しければ」という意識は、「冷笑的」な価値観と表裏一体の関係とも言えるでしょう。

⑥ 贅沢の日常化
冷笑主義は、「贅沢の日常化」という傾向にも表れています。「値段の高いものや高級なものを身に付けることが多い」と答えた人は、この10年で約3割(5ポイント)上昇しています。

ここでいう「贅沢の日常化」は、バブル時代などに見られた高級志向とは一線を画する傾向だと理解すべきでしょう。バブル時代では社会的な価値観としての上昇志向に則った、社会的なステイタスをゴールとした高級志向と考えられます。一方、冷笑主義における「贅沢の日常化」は、上昇志向でも社会的なステイタスではなく、今を楽しむためだけの、個人的な贅沢を意味するものと言えるでしょう。

⑦ 冷めた目線
冷笑主義を説明する7つめのポイントは、「冷めた目線」です。「ステイタスシンボルを身につけるのは知性のない人の特徴だと思う」と答えた人は、この10年で2割(5ポイント)上昇しています。

「冷めた目線」は、冷笑主義を最も説明する社会傾向の1つでしょう。ステイタスシンボルを誇示する人は、冷笑主義の人にとっては、文字通り冷笑の対象と映るのかもしれませせん。

3.「新しい原則についての考察

冷笑主義(シニシズム)は、どこかネガティブな印象を伴うかもしれませんが、近年の社会動向を踏まえると至極自然なトレンドとも言えるでしょう。古くから階級社会が存在し、長年にわたって複雑な社会動向を経験してきた欧州では以前から冷笑主義(シニシズム)を経験しているのかもしれません。
もちろん、日本人全員が冷笑主義(シニシズム)を持っている訳ではなく、人による価値観はそれぞれ異なりますが、社会的な価値観として冷笑主義(シニシズム)が一定の影響力をもつ社会になることは間違いなさそうです。日本での企業活動も、冷笑主義(シニシズム)を無視するのではなく、これを前提とした対応が求められるでしょう。
本分析のまとめとして、社会的価値観が冷笑主義(シニシズム)に向かう中、企業のブランディングやマーケティング活動における新しい原則について考察を行いました。

共感訴求より、独自性訴求
ブランディングやマーケティングなど、企業活動において「共感」は常に重要なテーマです。しかし、冷笑主義(シニシズム)が一定の影響力をもつ社会では、例えば、可愛らしい子供や小動物などの映像や画像を前面に押し出すことで共感を促す手法は、それだけでは以前よりも説得力を失うでしょう。抽象的な言葉(幸せ、未来、チャレンジなど)だけで共感を促すブランドメッセージも、かつてほどの訴求力は期待できなくなるでしょう。
冷笑主義(シニシズム)の社会では、受け手は冷めた目で企業に接します。彼らは、「結局のところ、この会社、このブランドは何が違うのか?」という部分に目を向けます。
広く抽象的に共感を促すよりも、競合他社と一線を画する存在感を訴求するブランディングやマーケティングが、これまで以上に求められます。

論拠やストーリーの強化
冷笑主義(シニシズム)の社会では、受け手は、企業の言うことを素直に信用してくれるわけではありません。『クラス最軽量の・・・』『圧倒的なパフォーマンスを実現』などといったうたい文句も、「だから、何なの?」といった冷ややかな捉えられ方をされるかもしれません。エビデンスや数字を使った具体的な特徴と、それらの特徴がどういった便益をもたらすのかが想起できるストーリーを示すことが、これまで以上に求められます。

強固な企業倫理の訴求
冷笑主義(シニシズム)の社会においては、受け手は企業の本質的な部分に目を向けます。企業倫理はこれまで以上に重要な判断材料となります。SDGs(国連による持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・企業統治)への取り組みを積極的に行っていない企業やブランドは、そのことだけで選択肢から除外されるリスクが高まるでしょう。
また、企業倫理を訴求する方法も、(企業紹介の申し訳程度に)単に事実だけを伝達するのではなく、これまで以上に優先順位を高め、時にはスマートに行うことが求められます。

新しい贅沢の概念
冷笑主義(シニシズム)の社会では、誇示的な消費意欲は低下し、ステイタスを訴求するブランドは、かつてほど訴求力を持ちません。
例えば、所得の二極化に伴い、今後新しい富裕層が増加すると予想されます。でも、彼らに対して、これまでのような贅沢品市場が通用するとは限りません。客観的なステイタスではなく、個人的に共感を覚える作り手、アーチスト、原産地など、主観的な贅沢感を感じさせる経験価値を届けることが、これまで以上に大切になります。


資料:分析手法についての記述

社会的価値化の変化を示した縦軸・横軸からなるチャートは、日本人の価値観を測定した41項目を変数に主成分分析によって抽出された2つの主成分によって作成されました。

縦軸(第1主成分)について
縦軸(第1主成分)は個人と社会との関わり方を示し、上方は「積極的に社会に関与」する意識、下方は「社会とは一定の距離を置く」意識を意味します。
〇縦軸上方の主な説明変数(主成分負荷量、上位3変数)
・例え自分の立場や利益にマイナスになることでも、人や社会の役に立つことを実行するようにしている
・デザインとかアートのセンスが高いと周りから評価されている
・>自分と違う価値観や意見をもっている人と、できるだけ多く知りあう機会を増やすように行動している
〇縦軸下方の主な説明変数(主成分負荷量、上位3変数)
・できることなら、他人とかかわり合いをもたないで過ごしたい
・他人がどうなろうと、どういう生き方をしようと自分には、全く無関係だと思う
・自分の気持ちを癒してくれる何かが欲しい

横軸(第2主成分)について
横軸(第2主成分)は、日常生活での基本的な考え方を示し、左方は「深く考える」という考え方、右方は「刹那的に生きる」という考え方を意味します。
〇横軸左方の主な説明変数(主成分負荷量、上位3変数)
・物事を理論的に考えたり、論理的に捉えることが得意だ
・日常のちょっとしたことでも、その理由や背景を考えることがよくある
・知的であることが、本質的には自分らしいスタイルだと考えている
〇横軸右方の主な説明変数(主成分負荷量、上位3変数)
・値段の高いものや高級なものを身に付けることが多い
・新しいショップ、レストラン、最新の音楽や映画の情報に人一倍詳しい
・明日がどうなろうと、今が楽しければそれで構わない

なお、分析に使用した2008年から2018年までの調査(生活意識調査「RISKYBRAND MINDVOICE®」)の調査対象とサンプル数は次の通りです。
〇調査対象: 全国15-64歳男女個人(世帯年収300万円以上)
〇サンプル数:
・2008年 N= 4,155
・2009年 N= 4,056
・2010年 N= 4,048
・2011年 N= 4,028
・2012年 N= 4,181
・2013年 N= 4,267
・2014年 N= 4,239
・2015年 N= 4,272
・2016年 N= 4,367
・2017年 N= 4,361
・2018年 N= 4,395
(オンライン調査)
*調査協力会社: マイボイスコム株式会社